鎌田哲雄の同友会形成コラム「陶冶(とうや)」

 

2018年度 バックナンバー

VOL.159 健康管理も仕事

仕事をしていく上で、何といっても大切なのは、健康、それも心身ともの健康です。

いかにすぐれた才能があっても、健康を損ねてしまっては、十分な仕事もできず、その才能も生かされないままに終わってしまいます。

どこの会社でも、社員の健康の維持増進についてはいろいろ配慮していると思いますが、それと同時に、自分自身でもいろいろ工夫して健康を保ち、高めていくようにすることが大切だと思います。

健康であるために必要なことは、栄養であるとか、休養、さらには適度な運動とかいろいろありましょうが、特に大切なのは心のもち方です。

昔から「病は気から」といわれますが、そういう面が実際多分にあると思います。心が躍っていると、人間は少々のことでは疲れたり、病気したりしないものです。

趣味やスポーツなどでよく経験することですが、それに熱中し、楽しんでいるときは、他人から見ればずいぶん疲れるだろうと思われる場合でも、本人はむしろ爽快さを覚えていることがあります。

心が躍っているから疲れない。あるいは疲れても、それを疲れと感じないわけです。

仕事の場合もそれと同じことで、仕事に命をかけるというほどに熱意をもって打ちこんでいる人は、少々忙しくても、ときに徹夜などしても、そう疲れもせず、病気もしません。

反対に、なんとなく面白くないというような気分で仕事をしていると、その心のスキに病気が入り込んでくる。そんなことをよく見聞きします。

もちろん人間の体力には、やはり限度があります。いくら心が躍って疲れを知らないという人でも、あまり度を過ごせば、過労に陥ることにもなりかねませんから、そのへんの注意は当然必要でしょう。

いずれにしても、自分の健康管理も仕事のうちということを考え、心を躍らせて仕事に取り組むことを基本にしつつ、人それぞれのやり方で健康を大切にしていってほしいと思います。

VOL.158 就業規則はつくるのが目的?

就業規則作成依頼を受けて打ち合わせをする中で、起こりがちなのが、就業規則を作成することが目的となっているケースです。「法律が変わったから」「社内に今の就業規則では対応できない問題が起きたから」と言った理由で、就業規則を変えたいという依頼です。

それらの問題に対応しないと行けないことは確かですが、それが目的になると、業務が滞ったり、規制ばかりになったり、ルールがありすぎて現場の人には何がなんだかわからないといった弊害が出てきます。

そもそも就業規則の目的とは何でしょうか?社員が会社のルールを理解することにより、社内の秩序が維持され、業務が円滑に進み、また、会社への帰属意識が高まったり、社員のモチベーションに寄与したりするプラスの効果をもたらすためです。

就業規則があることにより社員もモチベーションが下がるのは以ての外です。

そこまでいかなくても、何か問題があったときだけに引っ張り出してきて、「実は今回の君の行為は懲戒処分のこの項目に該当するから減給処分だ」と懲戒や解雇するための道具としてのみ存在するのはおかしい。つまり、プラスの効果に作用するため、どんなルールが必要か、どんな表現方法がいいのかを工夫する必要があると私は考えています。

たとえば、次のふたつを比べてみて欲しい。

「有給休暇を取得する場合は前日の終業時刻前までに所属長に所定の書面で申請しなければならない」

「社員は、前日の終業時刻前までに所属長に所定の書面にて申請することで有給休暇を取得することができる」、伝えたい内容は同じですが、後者のほうが社員側に能動的な印象を与えます。

もし、会社が社員に有給休暇の消化を促したいのであれば、後者の表現のほうがより適していると思います。

目的にあった就業規則にするとは、こういった表現にもこだわる必要があると思います。

最後に就業規則は自社の経営指針との整合性も求められます。まず、経営指針を成文化し次に就業規則を作成または改正するプロセスがあると就業規則の目的が明確になります。

VOL.157 温故知新の不易流行

「温故知新」とは、昔のことを勉強すると今の時代に通用することがわかる、ということ。

「不易流行」も同じような意味です。これは芭蕉が言われたことですが、俳句というのは新しいものを追いかけているけれど、その中の本質的なものは変わらないというほどの意味です。

そこで、まずソクラテスは、紀元前4世紀、今から2千数百年前の哲人ですが、こんなことを言っています。「人間の自然本性は、経験のない事柄の技術を得るほどには強くない」と。

一回読んだだけでは、何を言っているのかわからないのですが、要するに「人間はやったことのないことはできない」という意味です。

ピアノを弾いたことのない子はピアノを弾けないし、野球をやったことのない子に野球ができるわけがないという、当たり前のことを言っています。

これは、今ふうに考えれば、「我々は経験から学習をする」、あるいは、「経験と学習を通じて初めて、個別の人間的能力を発揮できるようになる」ということになるでしょう。

ソクラテスは『経験と学習』の他に、もう一つ、こんなことも言っています。

「少しのことをよく仕上げることの方が、たくさんのことを不十分にしか仕上げないことよりも優れている」。

つまり、何でも屋になっても、結果的には満足のいく状況にはならない。ある問題を徹底的にやることによって、初めて他の人に卓越する能力を獲得する、ということです。

これは、最近の言葉で言えば『選択と集中』です。人生の時間もエネルギーも限られているので、私たちはすべてのことにたくさんの時間をかけることはできません。

ですから、いくつかのことに絞って従事しながら、人生を送ります。

そして、その絞ったものを相当程度突っ込んで行うことによって、初めて他の人から認められるようになります。

いわば、「選択と集中」による専門性の確保が大事である、という教えです。

ソクラテスは今から2千数百年前に、すでにそのように言っています。

VOL.156 15年前の運動方針

資料を整理していたら15年前(2003年)の運動方針が出てきました。今回はこの内容をご紹介します。

 

【運動スローガンは「社会に誇れる強い企業と同友会をつくり、豊かで元気な愛媛を創造しよう!」(横)です。

運動スローガンの考え方は、企業を取り巻く経営環境の激変に企業の多くは対応に苦慮しています。

私たち中小企業家同友会は、その激変をチャンスとして認識し勇気をもって経営者と企業の変革をすすめている中小企業家団体です。

この間の同友会活動の中でいくつかの企業が問題を解決し、課題を達成してきています。

その企業の共通項は、経営指針を社員と共につくり、社員と共に点検し、達成気運がみなぎっている。

経営者と社員が常に学び合い、自由で明るい雰囲気がある。

顧客が望んでいるものを誰よりも早く、効率よく提供している。

つまり、経営の基本を守って実践している会員企業です。至極当然のことですが、経営理念を企業の隅々にまで共有し、日々実行している企業です。

愛媛同友会では、同友会理念に基づいた経営として「三位一体の考え方=「労使見解」を学び、経営指針を確立し、社員教育を実践する活動」を提唱しています。

「三位一体の考え方」と個々の企業が蓄えている固有の経営資源(人、物、情報等)を基本に、成果・教訓をふまえ、第1に、「企業の質を高める強い企業づくり」。第2に、「企業の質向上を支援できる強い同友会づくり」。第3に、「地域社会と共に生きる企業づくり」。第4に、「顧客と共に生きる企業づくり」。第5に、「社員と共に生きる企業づくり」。第6に、「環境創造に貢献できる企業づくり」に邁進することが“社会に誇れる強い企業と同友会をつくり、豊かで元気な愛媛づくり”になると考えます。】

 

如何でしょうか?15年経過しても鮮度は失われておらず、「三位一体の考え方」を通じて、「人を大切にする企業」づくりに取り組むことが、働き方改革に適切に対応することに繋がります。

VOL.155 同一労働同一賃金への対応

最高裁判決や同一労働同一賃金関連法により、パートや有期労働者と正社員との間で不合理な格差は許されないとされています。司法、行政、立法の見解が微妙に異なり、弁護士、役所、学者等がそれぞれの立場で好きなことを好きなように主張をしています。

今後何をどこまでやっておけば良いのか、中小企業経営者にとって理解できていないと思います。シンプルに考えると、「パートや有期契約労働者であることを理由として、不合理な処遇格差はダメですよ」ということです。これだけのことを言っています。あくまで格差是正の一環なのです。

今後はパート等から不合理な格差だと主張された場合、会社は一定の説明責任を負います。一定の説明責任とはその差異の理由を問われたら、"一応説明できる"レベルで構いません。逆に全く説明ができない給与格差、手当のつけ方であれば、「それは不合理な格差だから差額を要求する」と裁判・労働審判や行政ADRの場で反撃されてしまうかもしれません。

最近の最高裁の裁判例は運送業のドライバーでしたので、正社員と全く同一の職務で人事評価も不能であったことから、一応の説明も難しかったのです。しかし、「同じものは同じように、違うものは違うように扱う」というのが平等であり公平なのです。

職務の内容、配置転換の範囲、転勤の有無、業績評価、能力、勤続、年齢等々に差異に基づき処遇にも差異を設けるのは当然であり、経営裁量です。この経営裁量の中身を一応説明できるようにしておくことです。書面化されているとなお望ましいです。

中小企業は現在の司法・行政・立法の各当事者の意見を聞きすぎると混乱します。独自見解も多いです。そのような議論は学者や法律家の方に任せましょう。中小企業はしばらく様子見の感があります。

しかし、学者・法律家の見解を参考にしながらも、一般人の感覚で"一応の"説明責任が果たせるレベルへの改善には一歩踏み出す時が来ているといえます。

VOL.154 働き方改革で試される度胸

日本がお手本にしようとしている、ワークライフバランスと経済成長の両立を実現させている国、それはドイツです。

労働生産性が高いということで欧州の中でも一目を置かれています。ドイツ人は定時でサッサと帰ります。

個人主義が浸透しており、会社・上司・同僚を「忖度」することもありません。

それどころか、「それは労働契約に入っていないから出来ません」「残業できないので出来ません」と堂々と仕事を断ります。

ドイツには過剰なサービスもありません。過剰どころか、サービスや奉仕という概念もないようです。それを顧客も理解しています。その替わり、個人主義をベースに個人も会社も合理性を追求する気質・能力があります。

日本の政策としてドイツのような国を目指しているなら、同じような状況に近づいていくはずです。

一方、日本人は忖度なしで合理性を追求する国民性ではないので、ドイツのモノマネは経済活動に影響があると考えています。よくある「花の部分だけを採って、根っこの部分をとらえないベンチマーキングの失敗」と同様です。

しかし、ワークライフバランス重視は確定路線です。日本人は従順でまだまだ協調や奉仕の精神がありますし、労働契約の内容も曖昧ですから、社員が上司からの指揮命令を断るとは思えません。しかし、断る代わりにその会社を去る、すなわち「退職する」のです。

ワークライフバランスが実現できない、仕事の内容が曖昧、評価方法が不明等の理由で退職します。経営者は、顧客のわがままを一生けん命応える、顧客にとって理想の会社になることを目指します。それが存続条件と考えているからです。

しかし、顧客に奉仕する代償として、社員のワークライフバランスを犠牲にするなら、巡りめぐって、人の採用・定着がままならず、昭和の感覚の高齢者だけの会社になり、顧客のニーズに応えることができなくなります。企業にはいつの時代でも心身ともに「若い」ことが必要です。

VOL.153 労働時間の大転換

政府は2027年には時間外労働を行う場合でも月間45時間、年間360時間以内となることを目指しています。

つまり、現在許されている「特別条項」なるものを撤廃する予定です。

国会で成立した働き方改革関連法では、現行法では「限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る)」とあるのに対し、改正法では「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に通常予見することのできない業務量の大幅な増加等の限度を超えて労働させる必要がある場合」となっています。

つまり、改正法では「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等」でしか、特別条項は認めないことになりました。

たとえば、アイスクリーム製造会社で、5、6、7月が毎年、超繁忙期、売上の大半がこの期間に製造された製品で成り立っているとします。

しかし、これらの事情は「当然に毎年予見されている」のだから、特別条項の締結は認められないことになります。

行政や司法は現実的にどのように判断・運用するのかはさておき、立法上は特別条項を「殺した」にも等しい改正が行われたといえます。

これから7~8年以内に労働時間の分野は大きく転換していきます。

まず、現段階で特別条項付の36協定を締結しているにもかかわらず、ビジネスモデル上、遵守できていない会社は、あと5年もすればもうやっていけなくなります。

これに関連する法改正もまさに着々と進んでいます。

政府は財政再建のプライマリーバランスゼロなどの対策は、お題目だけで何度も先送りしています。

しかし、働き方改革関連分野は現実的に誠に力強いスピードで推進しています。

働き方改革とは再編・淘汰を促す改革です。

できない会社は潰れてもいい、若手を中心に働く者もそう思い始めています。

資産と売上をバランスさせ、回転を上げる、売上と費用をバランスさせ、収益をあげる、その前提として、労働時間をバランスさせないと先はなくなりました。

VOL.152 働き方改革では社員のやる気に頼る経営が最も危ない

若年労働力不足、人口減少・総需要減少、超高齢化高負担、若手の価値観の変化が、もう従来の労務管理制度を機能不全にしていくと思われます。

従来の労務管理制度とは、帰属意識、忠誠心、精神主義、信頼関係をベースとしたものです。

昭和から平成一桁までは「精神主義」「曖昧主義」「協調主義」はまだ通用しました。

しかし、「自分の時間を大切したい」「給与決定の明確な説明がほしい」「職務内容を明確にしてほしい」「男性も育児休業をとりたい」若手社員には全く魅力のない古臭い会社に映ります。

その「若手」たちが会社の多数派になっていきます。

政府の主導する長時間労働是正、有給消化率向上、同一労働同一賃金など欧米の労務管理に近づける政策は、若手に極めてウケがいい。

若手の価値観は欧米人に近づいています。

社員のやる気の向上のために、給与制度や評価制度をいじくる、長期的についてきてくれたら悪いようにしない、飲み食いをして一体感を高める等の生産性を向上させる手法は無理な段階に来ました。

つまり、もう精神性・協調性を強みにする、日本の独自の経営スタイルでは戦えません。

有給休暇は全部消化し、原則残業はなく、職務内容や目標が明確、明瞭な処遇制度、ワークライフバランス等、これを前提にした事業でないとやっていけなくなります。

ヤマト宅急便の例を出すまでもなく、値上げができる商品サービスに絞り込み、それを評価してくれる顧客を絞り込み、たとえ売上が下がったとしても、不得意で効率の悪い仕事を排除し、労働生産性を向上させ粗利を増やす。

その結果、ワークライフバランスを実現しながら、一人当たり粗利益を上げていきます。

ダメなパターンは、構造改革に踏み切らず、人が足りないから人を増やして、精神主義でやる気を高め、売上げを上げようとすることです。

いよいよ日本の労務管理がグローバルスタンダードに叩きのめされようとしているということです。

VOL.151 格差不合理・再雇用格差に最高裁判決

2018年6月1日に最高裁において、今後の賃金体系を考えるうえで注目すべき重要な判決が言い渡されました。

格差不合理手当については皆勤手当・通勤手当・精勤手当・無事故手当・作業手当・給食手当について格差が不合理であるとされました。

労働契約法第20条は正社員と非正規社員の待遇格差が不合理であってはならないとされています。

不合理性は、[1]職務の内容、[2]転勤・昇進などの配置の変更範囲、[3]その他の事情から判断することになっています。

最高裁は諸手当を一つひとつ取り上げ、「賃金項目の趣旨を個別に考慮する」方法を採用しました。

逆にいえば、「基本給」は最高裁も踏み込めない部分であるといえます。

日本の基本給は年齢・勤続・経験等さまざまな要素が混在して決定されている経緯があります。

再雇用格差については容認しています。最高裁は、定年退職後の再雇用等で仕事の内容が変わらなくても、給与や手当の一部・賞与を支給しないなどの待遇に差が出る事自体は不合理ではないと判断しました。

ただし、「精勤手当」を再雇用者(嘱託社員)に支給しないのは不合理で違法と判断しました。

賃金体系を構築するときには以下の点に注意することが必要といえます。

[1]賃金総額が合理的であっても、諸手当の額、手当の支給要件、支給の有無等の格差の合理性が問われているため、正社員の手当をなくす、非正規社員の手当を創設するなどの、諸手当の抜本見直しが必要となる。

[2]定年再雇用での賃下げは有効と認められたので、従来通りのスタンスで再雇用者の総額を決定する(ただし、その場合でも[1]には注意する)。

[3]最高裁では諸手当のつけ方に教訓をもたらしたが、同一労働同一賃金関連法案で、諸手当の他にも基本給・昇給・賞与等についても格差説明の義務が課せられている。

したがって、説明ができないと違法となるリスクがあるため、説明可能な賃金制度にしておくことが肝要です。

VOL.150 パワハラへの対応

最近、中小企業において、「これはパワハラだ!」という声が頻繁にあがっています。

重大なミス、それも一歩間違えれば命を落としかねないミスを起こした者に対して、きつく叱ることは当然です。

ミス等の程度ももちろんパワハラの認定で勘案されます。

業種によれば、「一歩間違えれば命を落とす」ということもあり、誤解も含めてパワハラだといわれてしまう頻度が高くなる場合もあります。

しかし、「よくもここまで」といえるほど裁判例などを紐解くと克明に上司の発言内容が出てくる場合があります。多くは携帯電話やICレコーダーで録音されています。

パワハラか否かは、その「ストーリー」「文脈」によって判断されるべきで、断片的に判断されないものですが、証拠価値は大きくなります。

本人の日記、メモ、家族や友人に送ったメールなどから、間接的に推認されることになります。

会社は、職場環境について労働者の健康を害さないよう、人格の尊厳を傷つけられないように適切に保つ注意義務があります。

会社として、パワハラ・いじめを放置した場合には、安全配慮義務違反として、損害賠償義務を負う可能性があります。

特に近年では、会社の安全配慮義務が厳格に解釈。「知らなかった」「聞いていなかった」という弁明が通用しないケースが多くあります。

簡単に「パワハラだ!」と言われる時代に会社として取るべき制度等があります。

それは以下のようなもので、

[1]職場においてパワハラに対しては厳正に対処するという方針を明確に打ち出し、各労働者に周知・啓発する。

[2]「相談窓口」をあらかじめ設置し、「適切柔軟に対応できるような体制を整備。

[3]パワハラが生じた場合において、その事案に関する事実関係を迅速かつ正確に把握し、適切に対処する。

前記の制度・システムがないこと自体が、安全配慮義務違反と評価されるリスクがあります。

逆にいえば、これらの制度・システムの整備はパワハラを防止するのに有効であるばかりか、事案が生じたときに会社を守る抗弁になります。

VOL.149 中小企業の昇給

マスコミ報道で「大手企業でベースアップ、前年越えが相次いでいる。」との報道があります。また、政府は「3%賃上げ」を求めています。この「賃上げ」について、私は大手企業と中小企業で意味が異なっていると思います。

大手企業の賃上げとは「賃上げ=ベースアップ+定期昇給」であり、これに対して中小企業は「賃上げ=定期昇給+調整昇給」ととらえるのが正解です。

中小企業はそもそも賃金表(テーブル)を持っていないことが多く、賃金表そのものを書き換えて全体を底上げするベースアップというのはなじみません。実態としてベースアップと定期昇給の区別がありません。

この「調整昇給」とは何か?こんな言葉は一般的ではなく、私の造語です。

昇給には3つあります。[1]定期昇給、[2]昇格昇給、そして、[3]「調整昇給」です。

調整昇給は定期昇給では追いつかない「万単位」の大幅昇給です。若手の採用難・定着難のいま、中小企業のいまこの「調整昇給」が求められています。

たとえば、A君は22歳で入社して32歳の社員は定期昇給が行われ、基本給26万円であったとする。

一方、B君は29歳で入社して32歳の社員の基本給は22万円であったとする。

中小企業は後者のB君のような社員の方が一般的であったりします。このような場合、3年経過して、一定の評価がなされたら、思い切ってB君に対して「調整昇給」を行うことをおすすめします。評価がよい場合 定期昇給6000円+是正昇給14000円=2万円などを実行する。

中小企業は中途入社・中途退社が多いので、賃金表に基づいた予定調和の昇給ではなく、もっとダイナミックでかつタイムリーな「調整昇給」を行うことが優秀な人材の定着につながります。中小企業はベースアップを行う原資がなかなかとれません。それは定期昇給に加えて、調整昇給を行わなければならないからです。昨今の特に若手の売り手市場下においては、いかに上手な「是正昇給」を行うかが経営の競争力を決めると思います。

VOL.148 働き方改革で利益が吹き飛ぶ?

働き方改革、政治的には否定しようがなく、聞こえがいい「美名」だが、特に小売・サービス・建設業等にとっては、単なるコストアップにしかなりません。

悲鳴にも似たご相談があります。それは、「若手の離職が止まらない」というご相談です。働き方改革に若干遅れをとってしまっている企業は特にそうだと思います。

ネットの就職情報サイトには「ブラック企業」「就職しないほうがよい」「退職者が多すぎて内部が崩壊」等、企業規模に比しては多くの書き込みがあります。年収ベースではそれほど悪くはありませんが、長時間労働・休日出勤が多く、管理職がパリっとしていない、そんな状況が目に付きます。出勤簿に押印するだけで、時間管理はなされていない。年次有給休暇は病欠以外なく、申請書さえない。「働き方改革」「人出不足時代」において、「未来のない会社」になってしまいます。

このような状況で、収益性・安定性に乏しければ「お手上げ」です。少なくとも利益は半分、足らなければ利益を3分の1にしてでも、「会社の姿勢」を社員に理解してもらうことです。チマチマやるのではなく、一気に改善をすることです。特に残業代と休日出勤手当を解決する。休日を増やす事に集中する。既存の社員が「会社は本気だ」と思うレベルに引き上げる。これは経営者にとっては恐ろしいことです。上昇の流れをもし作れなければ赤字に転落する恐れもあります。でも、やるしかありません。

ヤマト宅急便も現状の労働条件の改善だけでなく、過去2年分の残業代の遡及払いも行いました。中小企業が過去分の精算となると苦しいが、少なくとも現在を抜本的に改善することが求められています。お金が出せない収益性・安定性に乏しい会社はどうするか。不採算部門・商品・顧客から撤退し、業務リストラを行い、まずは縮小・スクラップすることです。つまり、働き方改革を実行できるような人と組織の体制を軸に事業を再構築する他ありません。

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