鎌田哲雄の同友会形成コラム「陶冶(とうや)」

 

2017年度 バックナンバー

VOL.147 採用作戦の立て直しを

サッパリ人が集まらない・・。採用候補者の反応は5年前の5分の1未満、そんな感じがします。

なんとか面接にこぎつけた人も5分面接すると不採用の人。いま、採用作戦の見直しがせまられています。

採用作戦とは、そもそもどんな人を採るのかという候補者像の設定から始まり、労働条件(給与、労働時間、休日等)の打ち出し、その情報をうまく伝える広報活動の作戦です。

中小企業に上昇志向がとてもある人、勉強熱心な人というのは候補者の少数です。

学生時代、夏休みの宿題を8月初旬に済ませてしまう人が大手企業に行き、私のようにギリギリになって、誰かがやった宿題を写しまくる人が中小企業にやってくるのです。

多くは「ソコソコの給与・ホドホドの仕事」そして「ワークライフバランス」を求めている人がきます。

その中で、指導教育を施し、一定の厳しさを教えながら、やる気を喚起し、少ないながらも管理職を目指してもらいます。

したがって、仕事の内容もさることながら、特に昨今の若い人が気にするのは労働条件です。労働条件とは給与(基本給と諸手当)、労働時間、残業時間、休日等です。

また、年次有給休暇の取得率や育児休業・職場復帰の実績などの情報公開も候補者にとっては最重要な情報となっています。

「家事育児と両立もでき、女性が働きやすそうな職場」でかつ、皆さん必ず求人票に記載される「人間関係の良さ(アットホーム)」、これが男性にとっても魅力になります。

業種業態により難しい事は十分承知しています。しかし、ゲームのルールが変わったいま、これが打ち出せないと中小企業は特に若い人は採れない、定着しないということになっています。

この前提で、当該事業を拡大するのか、縮小するのか、新卒採用をし続けるのか、いったん中止すのか、社員の定義はこのままでいいか、労務構成(社員とパート比率等)を再構築することになります。

採用作戦の立て直し・定着には自社の賃金水準を客観的に知ることが不可欠です。

VOL.146 人事評価制度の信頼性を高めるには

多くの真面目な会社は詳細で精緻な「基準づくり」に執着します。

評価項目を増やしてみたり、目標管理制度で評価してみたり、客観的な基準を立てようと苦心します。

しかし、人事評価制度の信頼性の源は詳細で精緻な「基準づくり」にはありません。

一言で言ってしまえば、人事評価制度の信頼性・納得性は、会社、社長、上司に対する信頼によって生まれます。

「人事評価制度の信頼性は、それを実施する会社等への信頼から生まれ」ます。

こう言いますと、「なんだ!そんなこといわれても、同義反復でどうしたらよいのかわからないよ、そもそも信頼がないから困っているのに・・」と言われそうです。

日本の統治機構として、三権分立(行政権、立法権、司法権)の仕組みがあります。

立法権の正当性の根拠は、民意の反映です。

つまり、多数決で民意が一応反映されているので、法律の中身はさておき、正しいとみんなで認めることとしています。

一方、司法権の正当性の根拠は、裁判所への信頼です。人事評価制度と同様にその制度への信頼が大切なわけです。

では、その信頼はどこから来るのでしょうか?それは「手続の適正さ」です。

詳細で精緻な基準づくりに走るのではなく、「手続きの適正さ」を磨く方向に舵をきったほうが良いです。

手続の適正さとは、部下(被評価者)の意見をどのようにとりいれるか、評価の前提となる事実はどう把握するのか、誰がどの段階で評価するのか、評価の説明は誰が、いつ、どのようにするか、評価と金額の決定根拠に納得がいかない場合どうするのか、評価者の人格・資質を高めるための取り組みはいつ、誰が、どのようにするのか、評価者毎の甘辛調整はいつ、誰が、どのように行うのか等です。

こうなれば、いかに評価にかかわる利害関係者で対話と議論を行うのか、という自社に合った「手続きの適正さ」を確保するか、という事になるわけです。

VOL.145 押し上げたい労働分配率

雇用情勢が大きく好転しているにもかかわらず、見合った賃金水準の上昇がなく、結果として消費拡大につながらない事態が続いている。

背景には、労働分配率の下落傾向があり、なんとしても改善を図る必要がある。

日本経済がデフレ脱却、成長率拡大をめざすなら、企業は改めて労働分配率のあり方を問い直すべきである。

労働分配率とは、企業が稼ぎ出した付加価値のうち労働者に分配する部分を指す。

従って、景気が回復して分母となる付加価値が拡大すると、低下する傾向があるのは確かである。

労働分配率が低いからといって、一概に状況悪化と判断されるわけではない。

しかしこの間、異次元の金融緩和により失業率をはじめとする雇用情勢が急激に回復し、賃金押し上げ条件が整ってきたにもかかわらず、なかなか結果が出ていない。

これ以上は下がらないという自然失業率に達するまで賃金上昇はないとする見方もある。

企業としては、進行しつつある人口減少を直視し、将来を見据えた労働力の確保・育成にもっと投資すべき時期に来ている。

付加価値の資本への配分は現在への投資という考え方は理解でき、これが内部留保拡大をもたらしている。

発想を転換し、労働力の確保・育成も企業の将来的な発展を約束するものとして見直してもらいたい。

消費税増税によって、毎回多大なダメージを受ける経済体質をいつまで続けるのか。

労働分配率がカギを握っている。

VOL.144 中途採用の賃金設計

業種・業界を問わず、市場競争が激化しています。もはや「無色透明の人材を新卒で採用し、長期雇用を前提として我が社の社風に染め上げていく」という雇用ポリシーだけでは、厳しい競争を勝ち抜くための人材戦略として不十分です。

かつては「中途採用の適齢期は30歳前後まで」と考えられていた時代もありましたが、今は40から50歳代の転職もごく当たり前になっています。それだけ人材の獲得競争が激化しており、年齢に関わりなく経験・実績を有する人材を即戦力として採用したいと考える会社が増えているということです。その際悩ましいのは、中途採用者にオファーする賃金水準の設計です。「うちの会社はほとんどが中途採用組」というような会社の場合には、これまでの採用実績を参考に報酬を検討することができます。

しかし、新卒採用がメインで中途採用をサブとする会社では、中途採用者に提示すべき報酬データが必ずしも十分に蓄積されているわけではありません。人の採用を行う際は、外的公平性を確保しただけでは不十分です。

もう一つの公平性、すなわち、内的公平性にも十分な配慮が求められます。これは「社内で同じような経験・実績を有する人材に払っている賃金水準を念頭に置いて採用者の給与を設定すべき」というものです。

内的公平を損なう賃金で採用すると、どうなるだろうか。それが社内の同等社員の賃金よりも低い場合には、入社後、そのことに気づいた当該中途採用社員は「不公平だ」と感じるだろうし、逆に高い場合には、昔から働いている生え抜き社員の側が、「なぜ新参者の彼(彼女)が自分たちよりも高い給料をもらっているんだ!?」と感じ、やる気を失ってしまうかもしれません。

人事労務担当者の頭を悩ませるのは、外的公平性(同等の経験・実績を有する人材の世間一般の賃金相場と比べた場合の公平性)よりも内的公平(同等の経験・実績を有する自社の社員の賃金水準と比べた場合の公平性)のほうではないでしょうか。

VOL.143 働き方改革の背景について

働き方改革の背景は労働力人口が想定以上に減少していることです。労働力不足の解消には3つの対応策が考えられます。

1つめは、働き手を増やす(労働市場に参加していない女性や高齢者)。

2つめは、出生率を上げて将来の働き手を増やす。

3つめは、労働生産性を上げることです。

 

3つめの労働生産性について補足すると、日本の労働生産性は、OECD加盟国の中で22位/全35カ国となっています。主要7カ国の中で最下位です。労働力が減少しても、国全体の生産を維持するためには労働生産性の向上が不可欠です。労働力不足を解消し、一億総活躍社会を作るために「働き手を増やす」「出生率の上昇」「労働生産性の向上」に取り組むというのが「働き方改革」の概要です。

 

働き方改革を実現するためには3つの課題があります。

[1]長時間労働、[2]非正規と正社員の格差、[3]労働人口不足(高齢者の就労促進)

これらが、働き方改革の最重要事項といってもよいと思います。長時間労働に関しては、法改正による時間外労働の上限規制の導入、勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備、健康で働きやすい職場環境の整備、時間外労働の法改正:36協定の見直しがポイントになります。

非正規・正社員の格差解消の施策は「非正規社員の待遇改善」に向けて、同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備、非正規雇用労働者の正社員化などキャリアアップの推進、非正規社員の賃金を、正社員に対して6割という今の現状から、欧米並みの8割まで引き上げようと目標を掲げています。最低賃金の引き上げも、これまでの取り組みを継続し、最低賃金1,000円を目指す意向です。働き方改革の目玉「同一労働同一賃金」とは、労働によって、同じ付加価値をもたらす人には同じ賃金と支払うべき、という考え方が「同一労働同一賃金」です。政府はこれを働き方改革の目玉として位置づけています。

VOL.142 経営者の心から始まる企業づくり

人を大切にする企業づくりの核心は、経営者の「心」が従業員の「心」に変化を与え企業にとっても最も重要な経営資源である「人」の価値を最大限に高めるところにあります。

そこには、企業規模であったり、企業の経営革新策に出てくる複雑な制度設計であったり、ハードルはありません。言い換えると、中小企業であることによるハンディキャップが全くありません。

さらに、この取り組みは組織が小さい方が実行しやすく、早期に定着させることができれば、企業が千人規模、1万人規模の企業に成長しても変わることのない社風とか企業風土といったものになります。

そのような意味で中小企業こそ実践しやすいし、企業を成長させる最も確実な方法であると確信しています。

 

では、人を大切にする企業づくりの核心が「心」に関係しているとはどういうことか。

「人」が「モノ」や「カネ」と決定的に違うのは、個々の「人」たる従業員のモチベーションが業務の成果に大きく影響するということです。

経営者が、残業がなく年次有給休暇を消化しやすい労働環境を確保しようとしていれば「働きやすい」という感情が生まれるだろうし、勤め先の企業がどのように社会に貢献しようとしているのかを知れば「誇り」を感じるかもしれません。

経営者から認められ、評価されれば、少なからず「やりがい」を感じる従業員もいるでしょう。

このような、個々の従業員が、それぞれの価値観に照らしプラスの感情が生まれる状況、つまり仕事に対するモチベーションを向上させるための心理的なインセンティブは、労働に対する価値観が多様化したといわれる今日にあってなお、企業の規模や賃金の額とは関係なく、経営者の努力によって作りだし、従業員に与えることができます。

このように考えると、とりわけ高い賃金を支払うことはできないが、従業員が経営あるいは事業に直接参加する機会を設けることができる中小企業の経営者の取り組みの成功の鍵は、この心理的インセンティブをいかに高めるかにあるといっても過言ではありません。

VOL.141 同友会的就業規則の改訂

就業規則の改訂は、ご承知のとおり、会員企業をはじめ中小企業の雇用形態、就労形態には多様なものがあり、各社においては自社に適応した就業規則を従業員の皆さんとの協議をへて作成、あるいは改訂していただきたいと考えます。

 

同友会では中小企業経営の労務問題の大前提としての考え方=理念として「中小企業における労使関係の見解」をふまえた労務諸問題への対応に努力しています。それは狭く労務管理をとらえるものではなく、「人を生かす経営」、「経営指針づくり」、「共育」活動に結びつくものです。「労使見解」の指摘する「経営者の責任」「対等な労使関係」は転換の時代にあって改めて学び直すべき内容をもっていると考えます。

 

以上のような観点に立って、自社の就業規則を従業員の皆さんとともに整備し、「魅力ある企業づくり」、「従業員をパートナーと考える企業づくり」をしていただきたいと思います。たとえ従業員が一人であっても、言い方に違いがあってもそこには「労使」の問題は発生します。経営者と従業員が立場の違いを認めあい、従業員の能力と意欲を最大限発揮し、引き出せる就業規則づくりを期待します。まず、前文を重要視して下さい。前文は経営指針、とりわけ経営理念と相通じるものとしての位置付けを求めます。何のために働くのかを討議し、目的意識の統一を図ることが大切です。

 

その主な柱は

[1]中小企業の存在と業界の役割~仕事への誇りや中小企業に働くことの意味を大切にしましょう。

[2]会社の存在価値~創業の目的や方向性を明らかにして夢やロマンを共有し将来展望を拓きましょう。

[3]地域への貢献と就業のあり方~顧客主義徹底を図るために顧客・取引先の意識を把握し、対応できる能力を養うことを求めましょう。

[4]望ましい労使関係~まず人間関係を大切にする社風づくりを明記しましょう。

[5]人生設計への実現~お互いの価値観を認めあい、協力しあって自己実現を図る環境づくりを目指しましょう。

 

以上の柱に留意し就業規則の改正を通し、変化の時代に対応できる環境づくりを求めます。特に幹部社員との意思統一、『何のために就業規則が必要なのか』を問います。また、総則では、労使の信頼関係をベースに、人間らしい生き方を求めあうことを明記し、労使とも遵法精神の徹底をはかり、話し合いを原則にする労使関係を確立しましょう。均等待遇と公平、平等の原則の徹底を明記しましょう。

VOL.140 求人内容と雇用契約内容

求人内容と実際の労働条件が異なるとして労働トラブルとなる事例も多くあります。

今回は、労働条件通知書に従業員が同意する旨署名をしたにもかかわらず、求人内容がそのまま雇用契約内容となった地裁判決をご紹介致します。

 

会社は、できるだけ多くの人が求人に応募するように定年制がない求人内容を記載しました。労働者は求人内容の定年制がないところに魅力を感じて、応募することとしました。

求人面接において、労働者が会社代表者に「定年制はありますか?」と聞いたところ会社代表者は「まだ決めていない」と答え、雇用契約期間も話題に上らず、その後も会社代表者から明確な説明はありませんでした。

裁判所の判断は、『労働者の署名押印のある労働条件通知書の内容ではなく、求人票の記載内容通りの雇用契約の成立を認め、会社は敗訴してしまいました。「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のないかぎり、雇用契約の内容となると解するのが相当である」、「求人票の記載と異なり定年制があることを明確にしないまま採用を通知した以上、定年制のない労働契約が成立したと認めるのが相当である」、労働者の同意は自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものと解するのが相当であり、これは賃金や退職金に限らず同様の重要な労働条件の変更についても妥当するものと解する。会社は定年制が無いことや一年契約であることを明確に説明せずに労働条件通知書を提示し、かつ労働者はすでに他の仕事を退職して収入が絶たれるため「署名するしかない」と考えて署名押印したと認められるので、自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由はない。そのため、労働条件通知書の内容で雇用契約は成立せず、求人票記載の内容で雇用契約が成立したとみるべきである。』

 

この裁判例の考えからすると、労働者が同意したと言えるためには、単に労働条件通知書や労働契約書に署名押印があるだけでは足りず、様々な状況から労働者が自由な意思にもとついて同意したのかを厳しく判断することになります。そのため、労働条件通知書や労働契約書があっても全く通用せず、求人票の記載内容の通り賃金を支払えと判断されるケースも出てくると思います。

 

今後、求人票については、労働問題を予防する意味でも記載内容に注意をする必要があります。

VOL.139 労務管理上の管理者に求められること

労働者の就業環境や、人々の労働に対する考え方は、ここ10年ほどの間に著しく変化してきました。終身雇用・年功序列・企業別労働組合などの制度に象徴されるいわゆる「日本型経営」は、1950年代半ば(昭和30年代)以降、日本の高い経済成長を支えてきましたが、平成に入って以降、どの企業においても見られるような標準的なシステムではなくなっています。

 

今後は業種ごと、職種ごと、企業ごと、そして個人ごとに、働き方の異なる「労働の多様化」の時代が進んでいくことになるでしょう。

 

同じ職場でも、多種多様な働き方をする労働者が混在して働くようになります。また、働く時間帯や働く場所も一様ではなくなります。つまり、昭和の高い経済成長の時代に見られたように、同じ職場で一緒に、同じ時間でいっせいに働く、画一的なワークパターンが標準とはいえなくなります。

 

労務管理上の諸問題も、賃金などの処遇問題をはじめ、サービス残業や解雇、パワー・ハラスメント、過労死、メンタルヘルスケアといった、より具体的で個別化されたものになりました。労務管理上の問題は、以前のように労働組合の執行部と人事の労務担当などの専門家同士が問題に対処するのとは違って、まず最初に労働者から直接、各職場の上司にもちかけられるのもうなずけるでしょう。その際に、直属の上司が適切な対応をしなければ、問題は複雑化・深刻化して、さらに大きく広がってしまうことになります。

 

近年では各企業のCSR(企業の社会的責任)が重んじられるようになり、その取り組みも積極的に行われるようになりました。企業活動を営むのに、コンプライアンス(法令遵守)はもとより、社会的な公正さや環境へ配慮した経営が重要となります。もし、労務管理上の問題の対処を誤って、事態が悪化したらどうなるでしょう。問題は職場内にとどまらず、会社の業績にまで影響を及ぼすような、全社的問題にまで発展する危険性すらあります。

 

政府が今年3月に策定した「働き方改革実行計画」を受けて、厚生労働省労働政策審議会の分科会が残業時間の上限規制に関する報告書の議論が始まります。罰則により強制力を持たせるなど実行計画に沿った内容になる見込みです。この「働き方改革実行計画」もこれからの労務管理には重要になります。ご一読ください。

VOL.138 社員の退職を未然に防止する

縁あって入社したにも関わらず、様々な理由で退職をするケースがあります。
退職には、家族の都合や、健康問題、適性の不一致、将来ビジョンの不整合、職場内の人間関係等様々な原因があります。いかに退職を慰留しても、意志の変わらない事もあります。
退職している原因の中には、「職場の人間関係」「ビジョンやキャリア」を挙げるケースも若手を中心に多くなっています。前者は、「目の前の問題からの退職」、後者は「将来の問題からの退職」と言えます。

 

ここで、両問題に対して、何か事前に手が打てなかったか、という事です。
退職意思が固まってしまったら、ほとんど懐柔が難しい状態になっていきます。そこで、「コーチング」と「キャリアカウンセリング」と言うコミュニケーションシステムが必要になります。
「職場の人間関係」の問題は、相手がある問題であり、どちらかが一方的に悪いと決め付ける事も出来ません。
また、人間関係を悪くしている張本人を下手に指導しても、それが更なる悪化原因にもなりかねません。職場として出来ることは、張本人に悪感情を持たせない程度の指導と、配置転換等の回避策を提示する位でしょう。

 

しかし、ここで大事なのは、それをどれ位早めに察知し、悩んでいる社員の声を聴き続け、一緒に考え、心を楽にする援助をしたかどうかです。
全員とは言えませんが、人間関係で悩む社員には「一方的な被害者意識」を持っているケースがあります。少しでもきつい言い方をされただけで、「自分は嫌われている」などの悪感情を持ってしまい、自分を冷静に見れていない事が多々あります。早めにコミュニケーションを取って、そういう意思が固まってしまうまでに、会話や面談で柔らかい物の考え方を本人に気付かせることが肝要になってきます。即、アドバイスや指導をするような面談や会話ではありません。寄り添うように、一緒に解決に導く為の、いろいろな視点を経験させることです。

 

「人間関係の問題」は、同じ職場においては解決策のでないテーマです。そういうテーマで心を痛める場合は、コーチングによる「話を傾聴する」事が重要な管理者のアクションだという事です。

 

次に「将来の問題による退職」です。
これは、「このまま今の仕事を続けても自分のビジョンやキャリア形成にプラスにならない。もっとステップアップしたい」と言う有能な若手や高学歴者に多い傾向です。これは、具体的なキャリアプランを仕組みとして用意する事と、それをしっかり伝え、本人の目標に落とし込む作業が必要です。「キャリアカウンセリング」とは、そういう目標管理を管理者と一緒に考え、時にアドバイスしたり、時に本人に考えさせることです。

 

先ず、キャリアプランとしては、何年後にどういう仕事や業務、マネジメントができれば、どういう職位になり、大体の賃金上昇はどれ位か、ある程度見える事です。

 

人は、将来の希望の為には、今の苦痛も耐えますが、将来に希望が見えなければ、今の苦痛よりは、新たな環境を目指して、飛び出すと言う本質があります。

VOL.137 人を大切にする社会に

日本はいま、世界に類を見ない高齢化を経験しつつあります。65歳以上の高齢人口比率はすでに世界水準です。

10年後には30%を超えると予測されています。さらに高齢者の中で65歳から74歳の比較的若い層と75歳以上の比較的高齢の層の比率は1:1ですが、10年後には2:3とよりトップヘビーの構造になります。2025年には団塊世代がすべて75歳以上になるからです。

こうした急激に進む高齢化に伴って顕著になってくるのが、労働力人口の減少です。このまま何もしなければ2030年には5,800万人へと、800万人近く減少し、15年間で12%の減少です。

最近、仕事でお客様の会社を訪問すると「求人を出しているが誰も来ない」という声をよく聞きます。

 

まず労働供給の源泉である人口減に歯止めをかけることが重要です。

ポイントは出生率の回復ですが、もちろん産めよ増やせよということではありません。子どもを産み育てたいと考えている人の「希望子ども数」を実現することであり、安倍内閣の目標とする出生率1.8の回復もその意味です。言うまでもなく必要なのは効果的な子育て支援施策の充実です。

子どもを産み育てる最大コストは、そのために仕事を辞めたり、仕事を続けるとしても本格的な就労をあきらめなければならない、「機会費用」です。とくに日本のように労働時間が長く、また家事・育児は女性の担当という性別役割分業観の根強く残っている社会では、多くの場合女性がこの機会費用を払わなければなりません。女性が出産子育てと仕事を両立できるような、育児サービスの充実をいまこそ急ぐべきです。

子育て支援施策の第一義的な目的は、より良い育児サービスによって子どもを産み育てたいという人達とその子ども達を幸福にすることです。親世代の大人とその子ども達という「人」を大切にする施策ということです。それが結果として労働力人口の減少幅を和らげることになります。しかしそれは減少幅を和らげるということであって、労働力人口の絶対数の減少は当面避けられません。

 

労働者数が減少し、また労働時間はさらに短縮しなければならないという条件の中で生産を維持するには、時間あたりの生産性の向上が必須です。時間あたりの「付加価値」生産性を高めることが重要です。高い付加価値をもたらす智恵や技能は人間にしか生み出せないから、付加価値生産性を高めるには、人の能力を高めるしかありません。企業内での教育訓練もますます充実していかなければなりません。これもまた、従業員を手塩にかけて育てるという、「人」を大切にする仕組みで、あらゆる面でこれまで以上に「人」を大切にしなければなりません。

VOL.136 「陶冶」の執筆にあたり

今回より、故・鎌田哲雄専務理事との約束である「陶冶」の執筆を担当させていただきます。

「陶冶」の100号にこのコラムの目的等が書かれています。以下、100号の抜粋です。

 

「そもそもこのコラムの目的は、同友会の目指す経営者・企業のあるべき姿や時代と同友会の関わりを映す『鏡』の存在になればとの思いで掲載を始めました。陶冶の意味は、人の性質や能力を円満に育て上げること。人間のもって生まれた素質や能力を理想的な姿にまで形成することをいいます。要は『人間形成』のことをいう表現であり、『教育』とほとんど同義語です。私自身は、同友会運動に携わらせていただき、『中小企業問題は教育問題』が持論に至りました。そういう背景からも人間形成や教育についての内容が過去のコラムの多くを占めています。」

 

私の同友会の入会は1989年8月21日です。この間、同い年の故・鎌田哲雄専務理事と共にお互い切磋琢磨しながら歩んできました。入会当時、まずはじめに言われたことは、「同友会活動と経営は車の両輪」ですと教えられました。

 

また、当時、愛媛同友会では、同友会理念に基づいた経営として「三位一体の考え方=『労使見解』を学び、経営指針を確立し、社員教育を実践する活動」を提唱していました。私はこのことを忠実に実践したことにより、現在があると思っています。

 

今後、故・鎌田哲雄専務理事の愛媛同友会設立時の創業価値を忘れず、同友会に対する深い想い、様々な教えを同友会理念実現のために活かして歩んでいきます。

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