鎌田哲雄の同友会形成コラム「陶冶(とうや)」

 

2013年度 バックナンバー

VOL.106 物語をつくる人、支える人

人生はよく劇に例えられます。誰しも自らの人生劇で主役の座を降り、舞台から逃げ出したくなる時もあります。

 

最近、会員と事務局の役割をテーマに相談を受ける機会があります。このテーマは新しくも古いテーマでもあります。会員と事務局の役割の例で思い出される事例があります。“志”なかばで会社経営が上手くいかなくなった会員。本人は勿論のこと。その家族や社員の苦悩は筆舌に尽くしがたいもがあります。

 

上手くいかない事を直視して、社員への情報公開と協力、業務への改善、市場や商品、サービスの見直し、金融機関との粘り強い交渉、お客様への説明等々、あらゆる人との固い絆が紡ぎ、信頼の土壌をつくり解決に歩み進めている会員を間近で見てきました。

 

会員の支援を続けるある事務局長は『その人の物語を支える』ことに心を傾けていると言います。『舞台でその人が主人公として、最も輝けるように事務局員が演じるべき役割を自ら見出し、それに徹する』。それが、悩みや問題を抱える会員の側に立った同友会事務局員の役割であります。

 

物語を紡ぐには、主人公だけではなく脇役がいます。社員が経営者に、会員が事務局員に最も信頼を寄せるときは、『黙ってそばにいてくれるだけで安心できる存在』です。会員と事務局員は鏡の関係でもあります。

VOL.105 リーダーの言葉とは・・・

同友会運動を通して、多くのリーダーを見てきましたが、私が尊敬するリーダーに共通するのは『不可能を可能にする』ことをひた向きに取り組んでいることです。

 

リーダーが本来やるべきことは、人を思考停止にさせないことです。リーダーは『不可能だ』という言葉を使わずに『道はある』とみなさんに指し示すことです。そうすると人の思考は回転し始めます。特に、リーダーは根拠がなくても『不可能は可能になる』と言ってのける“ある種の勇気”とそれを人に信じさせる言葉の『力』が必要です。

 

現実主義、リアリズムと言って、可能なことだけを追求するということは、単に船が沈むのを座して待つということに他なりません。みんなが可能なことしか求めなかったら、可能なことしか起こりません。

 

人類の歴史には、何度も不可能だったはずのことが現実に起きています。身近な私たちの生活の中でも思い当たることが多々あります。それは、不可能なことを可能にしようとすることを求める人がいたからに他なりません。

 

自分が本当に何を望んでいるのか、どんな人生を目標にしているのか?不可能を可能にする鍵は、『意志の力』です。そのためにもリーダーは、まず、『不可能を可能にする』ことを言葉にすること。そして、ひた向きに実践する。私はそういう人間でありたいと思います。

VOL.104 合言葉は・・・“ひとりぼっちにしない!”

最近会員から、ある経営相談を受けましたが、よくよく聞いてみると相談の本質は人間関係の悩みです。人間関係の悩みは、人間が存在する限り、普遍的なテーマでもあります。

 

『人間』は『じんかん』とも読みます。人の間、すなわち“人と人とのつながり”を『世間』といいます。『ソサエティー(社会)』を、福沢諭吉は『人間交際』と訳しました。名訳だと思います。

 

私たち同友会が目指す三つの目的(良い会社をつくる、良い経営者になる、良い経営環境をつくる)のひとつにある、『良い経営者になる』とは、自己変革を伴います。つまり、“人間関係の変革”との意義も含みます。世の中の不幸の大半は、人間関係が主因だといえます。打開の鍵の一つも、そこにあります。かつて私も若い頃は、人間関係に悩みました。

 

関係性を変えるには、まず自分が変わることです。自分が変われば、周りも変わります。相手を尊重すれば、相手もこちらを尊重します。まさに、『鏡の関係』です。その意味で、主導権は常に自分の手中にあります。まずは、目の前の『一人』に、尊敬と励ましで接することです。その自発の振る舞いから、自己変革への新しい一歩が始まります。

 

この秋、愛媛同友会は仲間運動=会員増強運動を展開しています。私たち同友会の合言葉のひとつに『ひとりぼっちにしない!』があります。会内、社内で、そして地域で、いつでも、どこでも私たち会員・事務局が『ひとりぼっちにしない!』の合言葉を実践しましょう。

VOL.103 本当の強さとは・・・世界最弱のヒーローから学ぶ

先日、惜しまれながら亡くなったアンパンマンの作者、やなせたかしさんは詩人でもあり、多くの歌を作りました。アニメの主題歌「アンパンマンのマーチ」も自ら作詞。25年前の放送開始以来、子どもからお年寄りまで幅広く愛されてきました。

 

実はテレビで流れているのは二番の歌詞で、一番は余り知られてきませんでした。その“幻の一番”が東日本大震災の後、広く歌われるようになりました。

 

ある日、被災地でラジオから流れたフルコーラスの“アンパンマンの歌”。一番は『そうだ うれしいんだ 生きる よろこび たとえ 胸の傷がいたんでも』と始まり、『なんのために 生まれて なにをして 生きるのか こたえられない なんて そんなのは いやだ』と続きます。

 

やなせたかしさんが“世界最弱のヒーロー”と呼んだアンパンマンの強さとは『傷つくことを恐れない強さ』。何度も立ち上がる姿を歌った歌詞が被災者を勇気づけたと同時に筆者もその一人です。

 

やなせさん自身もアンパンマンのポスターを作り、被災地へ。その思いを新聞で語っています。『やっぱり、生きている限り、何かをしなくちゃいけない。自分のできることで、少しでも皆に喜んでもらえればいい』。これからも作品は人々を励まし続けるでしょう。命は尽きても、心は尽きない。筆者もそういう生き方で人生を全うしたい。

VOL.102

春は新人や新た職場が待ち受ける季節です。ところで、今年の米アカデミー賞で八部門にノミネートされ、アン・ハサウェイが助演女優賞に輝いた映画『レ・ミゼラブル』。民衆の不撓不屈の魂を描いた同作は、日本でも多くの観客の心を打っている。筆者も映画館で観て感動した一人です。

 

映画は1985年の初演以来、ロングランを更新し続ける同名ミュージカルを基にした。だが、一曲だけ、ミュージカルにない、映画オリジナル曲が使われました。

 

「サドゥンリー(突然に)」という曲で、主人公のジャン・バルジャンが孤児となった少女コゼットを引き取るシーンで歌い上げられる。彼が人生の意味を劇的に見出す、静かだが印象的な場面です。

 

ビクトル・ユゴーは『レ・ミゼラブル』の有名な一節が刻まれている。「海洋よりも壮大なる光景、それは天空である。天空よりも壮大な光景、それは実に人の魂の内奥である」。ユゴーはこの名作の中で、どんな困難の中でも、希望を創り出し、勇気を奮い起す人間精神の偉大さを描きました。

 

人には、成長への転機というものがあります。成長は、必ず決意から始まります。新たな職場、新たな立場、新たな役割で出発する季節は、そのチャンスです。全ては自身の『やるぞ!』の変革から始まります。それは「いつか」でなく「今」です。新人の気持ちを持って前に進みましょう。

VOL.101

岐阜同友会代表理事を長く務め、社員五名から上場を果たし、『第一回日本でいちばん大切にしたい会社』大賞を受賞した未来工業(株)の創業者である山田昭男さんが登場したテレビ番組を観ました。

 

「残業なし」「営業ノルマなし」、「全員が正社員」「休日は有休休暇を除き年間140日」など、型破りともいいえる経営で、創業以来46年間赤字なし、平均経常利益15%を維持してきた電設資材メーカーです。

 

愛媛同友会でも総会や例会で報告いただき、四国中央支部では会社見学も実施して山田さんの経営を学んできました。

業務改善案を出した人には、その内容にかかわらず報酬も出します。他者との“持ち味”を常に意識し、「いちいち上司のお伺いを立てていると自由な発想も自主性もなくなる」と、「やりがいを持って幸せに働ける環境」づくりにこだわり続け、社員の“常に考える”力を引き出してきました。

 

一見、非常識にも思える経営も、“社員を大切にする”“社員の自主性を重視する”という強い信念に裏打ちされています。全てを一般化することはできないにせよ、この会社の好業績は、『自分が大切にされ、信頼されるときに、人は最大限の力を発揮する』という事実を示しています。

 

『一人ひとりの・・・を大切にしてきたから』と。『一人』を大切に=ここに時代を超えた『発展』の鍵があると思います。


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